まるごとの『命』

2016瑛太

瑛太(えいた)ママさんより

今回3人目の妊娠ですが、今までの2人の時とは何かが違い、ずっと違和感がありました。度重なる身体の不調も出てきて、その度に訳のわからない不安や恐怖が常にありました。お腹の赤ちゃんの・・・言葉では言い表せないようなパワー、エネルギー、生命力を感じ、自らの体力を全て注いでいる。という感覚でした。
産まれる2日前の妊婦健診で、私があまりにも不安そうにしていたため、先生から「どんなことがあっても受入れる覚悟がないと産まれてこないよ」と言われ涙が出てきました。その通りだったからです。私はこれまで理想ばかりを追い求めていたのでしょう・・・。そして、漠然とした不安を乗り越えられる自身の力を信じていなかったのでしょう・・・。私は覚悟を決めました。何度も『何があっても大丈夫。何があっても大丈夫。』そう言い聞かせ、その日を待ちました。
5月11日am5:00 2965gの男の子を数回の陣痛を乗り越えたぐらいの超安産で出産しました。そして生まれてすぐにその事に気付きました。産まれた赤ちゃんはダウン症だったのです。
私も助産師として働いていますので瞬時に様々な観察を行い、やはり間違いないと思う症状が数多くあることが分かりました。全身の状態は良かったのですが、念のため検査目的ということで赤ちゃんは市民病院へ搬送されました。
生れた当日は事実を受け止めきれておらず、涙さえ出てきませんでした。そして翌日になり徐々に事実とこの先のことが頭に浮かぶようになり 「私は本当に愛してあげることができるのだろうか」 と、どこかで拒絶したり後悔したり・・・ダウン症=障害児、普通ではない と偏見を持っている自分への罪悪感が常にのしかかってきました。
赤ちゃんが傍にいない分、愛着もわかず、出産した実感も全くありませんでした。ただひたすら、泣きました。涙しかでてきませんでした。そんな私にかん先生はずっと寄り添い、心を支えて下さっていました。
出産の翌日から小児科への面会に連れて行って下さり、赤ちゃんの顔を見て、触れて、徐々に気持にも変化が出ました。それでも、先のことを考えると、どんどん不安は出てきて、泣いて、泣いて、でも前向きに考えようという思いもでてきて・・・の繰り返し。
まだまだ、不安になったり、悩んだりするかと思いますが、今は、ダウン症という状態で生まれてくるということは、大変な生命力で、意味があること。この世に使命があって生まれてきたのだから、大切に大切に育てていこうと思っています。人より少しだけ成長するのがゆっくりなんだよね。それならその分楽しめばいい。私が必ず立派に成長させてみせる。私ならできる。そう信じています。
今回の妊娠、出産、産後は想像を絶するものでした。しかし、かん先生のところに来ていなかったら、私は今、こんな気持ちになっていなかったと思います。こんなに早く気持ちの受容ができ始めたのも、かん先生のおかげだと思っています。先生もとても辛かったはずです。それなのにいつも元気に笑ってパワーをくださり、私と一緒に泣いてくださり、本当に感謝しています。私は1人ではない。何かあったら頼れる人たちがいると思い、これから前向きに正々堂々、まっすぐに生きて行こうと思います。
妊娠中に感じていた違和感が出産して納得できました。
母親の感性って凄いですね。

助産師より

ママは今回の妊娠中、自分の体と自分の心に対し常に向き合って過ごされていました。妊婦健診に通われている時、前回の妊娠のように弾む心が表情に現れず、心の中で自問自答しているような感じでした。私は彼女の内なる物(?)を見せてもらえずにいたような気がします。いよいよ予定日が近づいてきたある日、私の方から切り出したのを覚えています。「何がそんなに心配なの?何があなたを悩ませているの?」彼女は「怖い」と言いました。前回の妊娠時と全く違う反応が返って来たのです。「何が」の部分は自分にも分らないけれど、怖いと話す彼女の不安を少しでも一緒に共有したかったし、和らげてあげたかった。ただ、産むという行為はお腹の中の赤ちゃんをまるごと受入れる事だよとだけ話しました。けれど力及ばずです。彼女は怖いという思いを持ち続けたままの出産だったと思います。出産直後「何が」の部分が解りました。
それからのママは強かった!いいえ、強くなろうと頑張り始めたね。色々な感情を脇に寄せ、自分が何をすべきか、産まれた我が子に何が大切かを短期間で整理し、動きだしましたね。オッパイを搾乳することから始め、何かをすること、体を動かすことで自分の中の心を固めていかれたように思います。私はあなたがBabyに触れ合うことで心の不安を取り除いてくれるだろうと、すがる思いでママの側にいました。Babyの力はすごいです。不安を少しずつ和らげてくれました。ママも私もまだまだ心は振れているけれど、出来る事をひとつずつ重ねていって、瑛太くんを育てていければ良いかなと思っています。いつもエールを送っているからね。

出産体験記

Posted by かん